犬憑きさん 上巻 (スクウェア・エニックス・ノベルズ)

犬憑きさん 上巻 (スクウェア・エニックス・ノベルズ)

<粗筋>
 野分と呼ばれる犬神をいつも連れている村瀬歩。幼い頃は苦しんでいた彼女も、今はなんとか折り合いをつけることができている。それは友人の典子のおかげでもあるのだが。高校で不思議な事件に出会う。
<感想>
 事件そのものよりも、人に見えないものが自分のそばにいるというオカルト的な話の解釈が興味深い。それは正しい世界なのか? 重なりあったもうひとつの世界なのか? 動物を殺したり、虐待したりするシーンが多いので、人によっては苦手かも。いや、私も苦手。

ヨハネスブルグの天使たち (ハヤカワSFシリーズ Jコレクション)

ヨハネスブルグの天使たち (ハヤカワSFシリーズ Jコレクション)

<粗筋>
 国境を超えて普及した日本型のホビーロボット・DX9。「彼女」たちは世界各地の戦場で、スラムで、都市で、人間の意味を問う。表題作を含む5編の連作短編集。
<感想>
 デビュー作である前作『盤上の夜』は、込められた熱量が素晴らしく、その熱気に当てられたかのような読後感でしたが、正直なところ今作はそれほどでも……。ちょうど今日は候補に上がっていた直木賞の落選が決まったところだけれど。
 『盤上の夜』でも書きおろしの新作二編がいまいち合わないなあと思ったのだけど、懸念したとおりに。洗練された、という意味ではこちらの方がきっと上なのかも知れないけれど、作風が抽象的になってきて、肌に合わなくなってしまった。
 うーん、何がいまいちだったんだろうと思い起こすと言葉にすると難しい。私に理解できるだけの頭脳と、感じ入るだけの感性が無いだけなのかもね。
 作中に登場して重要な役割を果たすDX9は、明らかに初音ミクがモデルで、読む人の99%は彼女たちのビジュアルを初音ミクで思い浮かべると思う。
 雨のように落下してくる歌姫ロボットとか、ビジュアル的には非常にそそられるんですけどね。
 伊藤計劃氏の死後に、宮内悠介という作家が現れたのは何かの縁かも知れないね。

Jの神話 (講談社文庫)

Jの神話 (講談社文庫)

<粗筋>
 全寮制のキリスト教系の女学院に入学した優子は、そこで生徒会長の麻里亜と出会う。全生徒から慕われる彼女は、しかし謎の死を遂げる。しかも、彼女は妊娠していて胎児は行方不明だという。麻里亜の姉、百合亜もまたその数カ月前に同じような死を遂げていた。
<感想>
 再読、と言っても15年ぶりか。あまりにインパクトが強くてタイトルの『J』が何を指すかはしっかりと覚えていたけれど、展開はほぼ忘れていていた。そうか、ラストに至るまではこんな話だったか……。
 まあ、読んでためになるとか、とにかく面白いとか、そんな話ではなくて、ひたすら最後の超展開をやりたいがための作品で、それはそれでそんな作りは好きだったりはするのですが、人によっては壁に叩きつけるかも知れない。
 15年くらい前は、講談社ノベルスにハマっていて、毎月出るたびにほとんど全てを買っていたなあ。メフィスト賞も、森博嗣清涼院流水蘇部健一と続いて、第四、五、六作目は同時刊行という謳い文句に心躍らせた若き日の思い出

たんぽぽ娘 (奇想コレクション)

たんぽぽ娘 (奇想コレクション)

<粗筋>
 「おとといは兎を見たわ、きのうは鹿、今日はあなた」丘の上にいたのは、たんぽぽ色の髪が風邪におどる、未来から来た少女……。表題作ほかを収めた短篇集。
<感想>
 『ビブリア』や『CLANNAD』を出すまでもなく、タイトルだけはよく知られていたものの、絶版で長らく読めなかった作品をようやく読むことができました。期待先行で実際読んでみたら……、ということもなく、このロマンチックな中年ミーツガールな小説が好かれるのもよく理解できるお話。
 『夏への扉』と言い、日本人は中年ミーツガールなSFが好きなのかしらん。
 他の収録作も負けず劣らず、と言いたいところなのだけど、ちょっと読後感はバラバラかなあ。後書きによると、収録作が書かれた時期もかなりバラバラみたいだし。『たんぽぽ娘』では良い感じだったロマンチックさが過剰だったり、幻想的雰囲気が過ぎたり、というのもあるにはある。
 でも、総じてワンアイディアを幻想的に昇華して、ロマンチックな文章で綴られた好短編が多いのは間違いない。他に印象的なのは、藤子F氏的な匂いのする『特別急行がおくれた日』、想像の余地の広がる『第一次火星ミッション』かな。

武士道エイティーン (文春文庫)

武士道エイティーン (文春文庫)

<粗筋>
 いよいよ三年生になった早苗と香織。福岡と神奈川に別れたあとも良きライバルであり続けた二人は、インターハイ勝戦での対戦を目指す。
<感想>
 という粗筋を書くと、ふたりの再戦がクライマックスだと思うじゃないですか。実際、最終巻はそういう話だと思ってましたが、かなり意表をついてきました。拍子抜け、と言っても過言ではなく……。
 読み終えた後はがっかり感もあるんだけれど、でもこれはこれで、もしかしたら『武士道ナインティーン』への布石なのかも知れない、とも思ったり。
 雑誌で発表された短編を組み込む形で構成されていて、その短編は早苗や香織以外の登場人物にスポットを当てられた話。こういうパターンは他の長編でも時々見かけるけれど、どうしても話の流れが不自然になりがち。それを最終巻に持ってきたのは、やっぱりちょっと失敗じゃないかなあ、とも。
 もちろん、個々の短編はいい話で、個人的には桐谷先生と吉野先生の話が特に好き。女子高生視点でない話だから、かえって作者本来の文章の持ち味が出てるんじゃないかなあという気も。
 16歳、17歳とふたりの成長を見守る父親のような気分で読んできたから、18歳のふたりの更にその行く先が気になるような終わり方は、これはこれで良いかな、とも思う一方で、最後はもっと熱い戦いを見たかったと思う気持ちもあり。
 まあ、でも、総じて良いシリーズであったことは間違いない。映画も見てみようかなあ。

変態王子と笑わない猫。 (MF文庫J)

変態王子と笑わない猫。 (MF文庫J)

<粗筋>
 横寺陽人は煩悩まみれの高校2年生。ある夜、ひょんなことで「笑わない猫」像に祈ったら、本音がダダ漏れに。そこで出会ったのは、クールでキュートな無表情娘、筒隠月子だった。
<感想>
 アニメ放映中に合わせ、積まれていた1巻を読むなど。アニメでは省略されていたり、説明不足だった点が理解できた。アニメの台詞回しで分かっていたけれど、文章の独特のリズム、比喩表現がとても面白い。難しい単語を混ぜたかと思えば、軽い文体を使いこなしたり。
 ラノベ向きというか、コメディ、シリアスどちらにも対応できる、ありそうでなかなか見ない書き方のような。
 内容は、アニメでもそうだったんだけど、本音と建前の区別が分かりにくいというか、冒頭に横寺がそれで困っている様子があまり無いのが難点だと思うんだよね。でも、月子の言うように、本来それらは分けて考えるべきものではないはずで、その人が考えていることは、すべてその人自身のこと。
 要するに、月子も梓も俺の嫁

ミナミノミナミノ (電撃文庫)

ミナミノミナミノ (電撃文庫)

 
いい引きで終わっているなあ。1巻の刊行から8年、どうやら続きが出そうにもない本をなぜ私はいま読んでしまったのだろう。