鏡の中は日曜日 (講談社文庫)

鏡の中は日曜日 (講談社文庫)

<粗筋>
 14年前、法螺貝様の異様な館・梵貝荘で起きた奇妙な殺人事件を解決したのは、名探偵・水城優臣だった。そして現在、石動戯作のもとに、その事件の再調査の依頼が。果たして、名探偵は何を間違えていたのか。表題作と『樒/榁』の二編を収録。
<感想>
 殊能氏追悼、というわけでもないけれど刊行以来だから十年ぶりくらいに再読。一番大きな仕掛けについては覚えていたけれど、大筋はほぼ忘れていたから、殆ど初めてに近い感覚。ミステリとしては、その覚えていた仕掛けが一番の見所で、あとは特筆すべき点は無いかなあ。
 その仕掛けも、ミステリの本筋とはちょっと違う方向だし。この作品は本格ミステリと銘打っているけれど、むしろアンチ本格ミステリというか、批評めいた視点で書かれた感じに思えるね。
 いったん二階に上がらないと中庭に行けないという奇妙な構造の梵貝荘を受け継いだ息子が、住みにくいの一言で徹底的に普通の家に改造してしまうとか、名探偵を叙述するワトソン役についても、そこかしこに皮肉が込められているような気がする。
 そんな感じで、前の三作の比べて印象が薄かったのも仕方ないかな、と思う作品ではあるけれど、そういった茶目っ気というかなんというか、みたいな作品がもう読めないのは寂しいところではあるなあ……。
 今回は文庫本で読んだけれど、ノベルス刊行時は『鏡の中は日曜日』と『樒/榁』は別々に発売されたんだよね。後者は、メフィスト賞受賞者による袋とじ密室トリックシリーズみたいな感じで刊行されていた覚えが。密室特集でタイトルが『樒/榁』というのが、とても洒落ている。