ドラえもん のび太のひみつ道具博物館』感想。
http://doraeiga.com/2013/
 
 ネタバレには配慮しますが、多少結末に触れるのはご勘弁を。
 
 まず、前置きとして。もう、ここ十数年は二年前の新鉄人兵団を除けばドラ映画を劇場で見ることは無かった。ドラ映画は大きく四期に分けることができると思う。F氏が大病をする前の「恐竜」〜「竜の騎士」、亡くなるまでの「パラレル西遊記」〜「ねじ巻き都市」
 声優交代までの「南海大冒険」〜「ワンニャン時空伝」、そして新ドラと呼ばれる「恐竜2006」から今回の「ひみつ道具博物館」まで。作風も変化していて、やはり個人的には第一期が一番好きだ。第二期は子供向けになってしまっているし(もちろん、自分が大きくなったということもある)。
 第三期に関しては、残念ながら熱心な視聴者とは言えず、内容もあまり覚えていない。ただ、F氏没後は縮小再生産の傾向が続いていたと思う。第四期、新ドラになってからは色々と模索している感じで、過去作のリメイクに関してはある程度成功していたと思う。特に新鉄人兵団は良かった。
 ただ、オリジナルに関しては残念ながら良作とは言いがたく、矛盾点の多い作品になっていた。去年の「奇跡の島」は未見なので、なんとも言えないけれど評判を聞く限りは、それほど違わない模様。
 そんなわけで、最初は今年の作品にも期待はしていなかったのだけれど、ただ予告は結構面白そうだなあとは思った。「ひみつ道具博物館」という響きが、なんだかワクワクするものだったのだろうなあ、と思う。それでも、見に行くまでのつもりは無かったけれど。
 いざ封を切られると、好評価がそこかしこから聞こえてきたので、本日見に行ってきた次第。そして、確かに面白かった。第一期に勝るとも劣らないワクワク感が最後まであった。
 まずは、脚本の良さ。怪盗デラックスの正体と目的は? という謎を後半まで引っ張って、そして意外性のある答えを用意している。のび太が指摘する寸前のヒントで気がついたけれど、そこまではずっと分からんかった……。
 そして、これが一番よく指摘されていることだけれど、これまで縮小再生産に陥っていた要因である、異世界での冒険からの悪者退治という展開を打ち破ったこと。舞台の殆どが博物館内という小さな(と言っても広いけれど)建物の中で起こり、そして明確な悪者もない。でも、一大スペクタクルはちゃんと用意されている。「竜の騎士」に近い感じ。
 あとは分かりやすいメッセージと、それを裏付けるエピソード。のび太、そしてゲストキャラであるクルトを通じて、「誰にでも取り柄がある。頑張れば、それはきっと見つかる」という子供にとって、とても大事なメッセージが伝わりやすく、押し付けがましくなく語られている。
 今回はとにかく脚本の勝利だなあと思う。さらに言えば、全体的にコミカルな感じだったのも良い。新鉄人兵団は二回見たけれど、一回目は夜、二回目は学校が始まった後の平日だったので、観客は数えるほどしかなかった。でも、今回は春休みの日中で、周りは子供だらけ。これは実に久しぶりの環境。
 ああ、ドラえもんは子供たちのものなのだなあということを改めて思った。懐古主義のおっさんがひとりで見に行くのは、やはり場違いなのかも知れない……。
 さておき、自分が子供の頃の「宇宙小戦争」での画面いっぱいのドラコルルとか、「鉄人兵団」の「子供電話相談室」発言とか、そういう劇場全体が笑いに包まれる、という懐かしい雰囲気を味わえた。
 特に注目すべきは怪盗ドラックスで、五頭身のドラえもんがかっこ良くアクションをするという、シリアスな笑いをクライマックスに持ってきたのは正解だと思う。他にも個人的には、泉の女神軍団で笑ったなあ。
 懐古主義的なドラファンとしては、ひみつ道具博物館に展示されている様々な道具だけでワクワクしたけれど。しかし、ゴルゴンの首は改良を重ねる必要があるほどの道具なんだろうか……。
 まあ、最後の展開はちょっとツッコミどころも多いというか、いや最初からそうしておけよみたいなところもあるのだけれど、それはご愛嬌で。全体的には、脚本と演出とメッセージ性が高いレベルで融合した傑作だったと思う。劇場に観に行って良かったなあ。
 かつてドラえもんファンだった貴方へ、みたいな感じで大人も呼び戻すように作品でした。
 来年は大魔境のリメイクっぽい。さて、どうなることか。楽しみに待つとします。
 ドラえもんは、自分の中の原点なので、今もこうしてなお、新しい挑戦がされるのは嬉しいですね。新ドラは声が、というので敬遠するのはもったいないです。