百年法 上

百年法 上

<粗筋>
 六発の原爆により壊滅的な敗北を迎えた日本。1948年、人不老化ウィルス(HAV)による不老技術が確立されると、アメリカの主導により多くの人達が不老化処置を受けた。
 人は事故や事件、特殊な病気以外で死を迎えることはなくなったのだ。そして、同時に処置100年後に強制的に生存権を剥奪されるという通称「百年法」が制定された。時は流れて、2048年、ついに最初の百年法の施行が間近に迫る。その頃の日本は、世代交代の失敗により社会は大きく停滞していた。
<感想>
・二週間近くかかった読後の感想は、なんとも言えない。傑作であることに間違いはない。そして、また同時に大きな国難に見舞われる日本共和国の姿に、現代の日本を重ねずにはいられない。色々と書きたいことは多いのだけれど、うまく言葉にまとまらないな。
・群像劇的に多くの登場人物が出てくるのだけれど、印象に残るのは遊佐首相と牛島大統領だろう。最初の国難を乗り切り、国のために尽くそうとした彼らでも、しかし権力の中枢に長く居座り続けることによる弊害を乗り越えることは出来ない。
・政治家や官僚たちが、熱い。今の日本にも、こんな人達がいればいいのに、という作者のメッセージだろうか。
・話の展開としては、ちょっとご都合主義かなあと思わなくもない部分もある。特にSMOCという病気については。あと、SFとしては1948年当時に老人だった人たちが不老化処置を受けたのかどうか、について何も触れられていないのが気になるところ。
・文章はちょっと独特。読みにくさはなく、それどころか、かなり簡潔な文体。話の筋を追うことに集中させる感じ。
・取留めのないことを書いているけれど、要はとても面白かった。ということで、たぶん年末のベストや本屋大賞あたりに名前が挙がるのではなかろうか。
・繰り返しになるけれど、牛島と遊佐が良いんですよ。決して人格者ではないし、間違いも冒すけれど、でも素晴らしい政治家なのですよ。
・政治的なメッセージとして「期間を定めた独裁」こそが、国難を乗り切る一番の手段としているところも、個人的には共感を呼ぶところ。議会制民主主義では決定までに時間がかかり過ぎる、といういかにも今の日本の体たらくを表しているかのようではないですか。
・あと本筋ではないけれど、陰謀論について。「彼らにとっては陰謀の存在する方が望ましいからだろう。たとえそれが邪悪な企みによるとしても、世界が何者かのコントロール下にあると考えたほうが、よほど安心できる」
・「なぜなら、いざとなれば、その何者かがすべてを正常な状態に戻してくれると期待できるから。本当に誰にも制御不能であるという事態ほど恐ろしいものはない。そこから逃れるためなら、多少の矛盾に目を瞑ることなど、問題にもならないようだった」
第二次世界大戦を経験していない多くの人達にとって、さきの東日本大震災原発事故は大きなカタルシスを与えられる、生まれて初めての出来事であったのだなあ、ということを、こうしてフィクションを読むことで改めて思い知るのです。
 
 Twitterに書いたこと、そのままなのでまとまっていないのですが、要は面白かったということです。