Delivery (ハヤカワSFシリーズ Jコレクション)

Delivery (ハヤカワSFシリーズ Jコレクション)

<粗筋>
 ノンオリジンの少年・アーウッドは、月にあるという「神の世界」に憧れる。だが、突如世界中を襲った原因不明の大災害により、彼の運命は大きく変わる。
<感想>
 出だしから想像される、たぶんこんな話の展開になって行くんだろうなあという期待は大きく裏切られる。良い方向に。とにかく、展開が目まぐるしく変わり、アーウッドはまさに、境遇を次々と変化させられていく。
 少しネタバレすると、ノンオリジンとはチンパンジーを基に遺伝子操作された、人とも猿とも言えない新人類のこと。人とは多少違う思考をする彼らだけれど、最後に迎える結論は、ある意味とても愛に満ち溢れている。
 「永遠」と「愛」の物語は、またとても現代的なお伽話とも言える。もちろん推測でしか無いけれど、この作者は麻枝准とか知ってるんじゃないかなあ。そんな「えいえん」のお話。
 普遍的なSFの名作とは違うけれど、今の世の中で読むには、色々と感じるところがあると思う。大震災後に書かれているためか、「大災害」についても身近に感じる。これは物語のメインとはなってはいないけれど。
 この「大災害」はある装置によって半ば事故として引き起こされたことが判明するのだけれど、その装置の解体を巡る議論とか、復興のための税金がどうとか。この辺りはスパイス程度でしか無いけれど、それでも否応なく現在の日本を思い起こさざるをえない。
 こういう、架空と現実が曖昧に交じり合うところが、SFの面白さだと思う。これは他のジャンルではなかなか無いことではないかなあ。
 ひとつだけ惜しいのは、作品の根幹に関わる部分で、「ヒッグス粒子」が結局発見されなかった未来、というのがあるのだけれど、この本が出たのが5月で、たぶんそのすぐ後に発見のニュースがあったのではなかろうか。