天帝のあまかける墓姫

天帝のあまかける墓姫

<粗筋>
 前回の「駿河」事件のアメリカでの事情聴取を終え、まほろと栄子は日本帝国政府専用機「おおろら」で帰国の途に着く。機には華頂宮や、小月軍相、千歳外相ら要人も乗り合わせる。
 そして、一部乗員によるハイジャックが起こる。政府への要求は、ある人物の身柄の引渡し。更にその最中、千歳外相が密室の機内で失踪、そして小月軍相が何者かの手により殺害されてしまう。果たして、ハイジャックは鎮圧されるのか、そして誰が大臣に害を加えたのか。人質たちによる推理合戦が始まる。
<感想>
 複数の探偵役が論理的推理を展開し、議論するという古典的な手法を取りながら、一方で起こる事件は突拍子もなく、SFやファンタジーさえ内包する稀代の『天帝』シリーズ最新作。なんか、講談社から幻冬舎に移ってしまったようだけれど。密かに楽しみにしていたりする。
 今回も政府専用機がハイジャックされ、大虐殺が行われる中、誰が殺人犯なのか、誰が裏切り者なのか、Who とHowが入り乱れた推理合戦が繰り広げられる。そして、ラストはお約束のファンタジー。もはや、いつどのような形で「あの人」が登場するのかに、目が離せない。
 とは言え、今回は推理部分がちょっといまいちだった感じ。特にダイイング・メッセージについては、そもそもあんなメッセージを残せるんだろうかという疑問が。それを言っちゃあおしまいよ、かも知れないけど。探偵が知るはずのない会話などが、物語で提示されているというひと言で片付けられたり。
 もとより、とても文章が読みにくい。パッと見ても「快適備品(アメニティグッズ)」「二度焼陶器人形(ビスクドール)」「竜胆紫色(ジェンティアンブルー)」といった振り仮名満載なのは、承知のうえだけれど、それを置いてもメタ的、衒学的な発言の多いことよ。この辺りは完全に好みが分かれる。
 まあ、それでも、この壮大なホラ吹き物語がどのような風に進んでいくのか、それが楽しみなのである。本当はこの作者の他のシリーズも読まないと、全容が掴めないんだけどねえ。今回も思わせぶりな記述があるし。