ばんば憑き     

ばんば憑き    

<粗筋>
 旅先で長雨により足止めをくらった若夫婦がひとりの老女と相部屋になる。我がままな妻は不機嫌になるが、夫はその老女と親しくなる。彼女が話す過去の忌まわしい事件とは。表題作「ばんば憑き」など、江戸を舞台にした短編六編。
<感想>
 江戸時代に暮らしたことなどないのだけれど、なにか当時の雰囲気を感じる。それは、昔は良かった的なものではもちろんなく、風俗こそ違えど、今も昔もそこに暮らしているのは人間なのだ、という当たり前の事実。
 宮部みゆきはあまり読んだことがなくて、作者が得意とするという江戸物は実は初めてなのだけれど、やはり評判に違わぬ出来だった。話はいずれも、物の怪、妖怪の類にまつわるもの。特に表題作の「その後」の恐ろしさや、「討債鬼」の最後のシーンの空恐ろしさなど、後に残る短編が多い。
 さりとて、恐ろしさばかりを強調するわけではなく、出てくる人物の大半は憎めない善い人である。しかし、悪人ばかりが悪いことをするわけではない、というのもまた現実なのである。