<粗筋>
 大正の天才歌人・園田岳葉は2つの心中未遂事件で2人の女を死に追いやり、自らはその事件を歌に読み上げた後に自害を遂げた。遺された歌に隠された真実とは。他、明治終わりから昭和初めを舞台にした「花葬シリーズ」全8編。
<感想>
 再読。とは言え、この表題作「戻り川心中」がとにかく凄い話だったという曖昧な記憶しか残っておらず、ほぼ初読に近い。その印象どおり、「戻り川心中」で明かされる歌人の執念は狂気を通り越した、作家としてのひとつの到達域を感じる。
 他には幼い娼婦の儚い恋を描いた『桔梗の宿』生き別れた兄妹の末路を描く『花緋文字』など、いずれも解説に曰く「ミステリ」と「恋愛」の融合を目指し、それだけに留まらない作品になっている。
 文章は非常に情緒性が高いが、ちょっと高すぎて気取った言い回しに感じる点もある。ミステリとしては、これは文句のつけようもない。まあ、数多くの有名な作品を書いている作者の中でも、ミステリとしては一番有名な作品であるから、当たり前なのだけれど。
 『戻り川心中』という短編集は同じタイトルで幾つかの出版社から出ているのだけれど、収録作が違っていたりするので注意が必要。