火蛾 (講談社ノベルス)

火蛾 (講談社ノベルス)

<粗筋>
 12世紀の中東。聖者たちの伝記録編纂を志す作家・ファリードは、取材のため、アリーと名乗る男を訪ねる。
 男が語ったのは、姿を顕わさぬ導師と4人の修行者たちだけが住まう山の、閉ざされた穹廬の中で起きた殺人だった。
<感想>
 再読なのだけど、読んだのは10年前のことなので、イスラム教版『鉄鼠の檻』だったという認識以上のことは忘れてしまっていて、ほぼ初読に近い。
 10年以上前のメフィスト賞受賞作。当時は、凄い新人が現れたと話題になって、年間ランキングも賑わせた。その筆力がずば抜けていて、とても新人とは思えない。内容は、ちょっと説明的すぎる感はあるものの、扱っている題材も興味深く、面白い。
 しかし、一番のミステリーは、これほどの作品を書いた人物が、それ以降まったく作品も発表せず、沈黙を続けたままだという事実。時折、あの古泉迦十が復活する、という噂がまことしやかに流れるが、事実であった試しはない。