傍聞き (双葉文庫)

傍聞き (双葉文庫)

<粗筋>
 患者を真っ直ぐ病院まで運ばない救急車。「迷走」刑事の娘が出すハガキに隠された秘密とは。「傍聞き」火事の現場に急行した消防士。いるはずの赤ちゃんが見つからない。「899」元受刑者を気遣う受入施設の施設長が目にしたある光景。「迷い箱」全四編の短篇集。
<感想>
 もとは2008年に単行本で出て、去年に文庫化。そこから、口コミで話題になって本屋でも取り上げているところが多い作品。表題作は推理協会の短編賞を受賞している。いずれの話の主人公も、人の生命や業と深く触れ合う職業。
 神経をすり減らす生活の中で出会う、決して大事件ではないけれど、その人にとっては大切な出来事。四編とも、優しさや思いやりが根底にある心温まる真相になっている。それもまた、人の一面。
 小説の醍醐味は短編にあり、と言うとおりのアイディアが楽しめる。個人的には「迷い箱」だけは、その真相はすぐに気づくだろうと思ってしまったものの、あとの三編は答えはすぐそこにあるのに、分からなかった。良い話、優しい話が読みたい時にどうぞ。
 ただ、逆に言うと、あまりにも綺麗すぎて物足りなさを感じるのも確か。