奇面館の殺人 (講談社ノベルス)

奇面館の殺人 (講談社ノベルス)

<粗筋>
 作家の鹿谷門実が訪れたのは、奇妙な仮面が並ぶ「奇面館」。そこでは主人の影山の頼みで、訪問客は仮面を被ることになっていた。六人の招待客がみな銘々の仮面を被り、晩餐を終えた翌朝、首のない影山の死体が発見され、六人の仮面には鍵がかけられていた。
<感想>
 こう、今や懐かしき新本格という気すらするのですが、新本格好きにとって、やはり館シリーズというのはひとつ独特の立場にあると思うのですよ。さて、いったい何年ぶりの新作だと声をあげて喜ぶわけです。中身は、がちがちの館もの。奇妙な館、奇妙な主人、奇妙な訪問者、そして吹雪の山荘。
 あれも伏線、これも伏線と謎が明かされると、よくぞ仕掛けたなあと感心すること頻り。作中を覆う、あるもどかしさについては、なぜそれに思い至らなかったのかと内心忸怩たる思いでした。久しぶりに古き、とは言いたくないですが良き館ものを満喫しました。
 ……とは言え、手放しで褒めるには色々と不満も。一番は、無駄に長く感じるということですね。説明がくどかったり、心理描写が過剰だったり。それほど厚い本ではないのですが、それでも冗長に感じました。
 あとがきにもともとは半分くらいの予定だったとありますが、それで収めたほうがすっくりしたのではないかと。
 館シリーズと言えば、抜け道などの館の仕掛けなのですが、これもそもそもが何のために造られた仕掛けなのかが判然としない。中村青司の遊び心としか説明されていないけど、この犯行のために作者が用意したという風に見えてしまうのが、ミステリとしては残念なところ。
 まあ、でも新作が読めれば充分に満足なのです。館シリーズは、次が最後らしいですが、果たして何年後になることやら……。このシリーズと京極夏彦の妖怪シリーズは何年も新作を待ちわびて、そして出るとすぐにでも読んでしまいたくなりますね。
 今作は、なんか『水車館』を思い出しながら読んでいたり。あれも主人が覆面していたし、最後に用意されているあることがちょっと似ていたり、全体的に漂う雰囲気もなんとなく似通っている気がしました。
 今作は論理的な推理で犯人にたどり着く、という趣向で大掛かりなトリックだとか仕掛けだとかが出てこないのが、なんとなく不満なのかも……。