64

64

<粗筋>
 昭和64年。7日間だけ存在したその年、D県内で誘拐事件が発生。少女が殺害され、身代金も奪われたまま未解決となった。
 「ロクヨン」の符丁で呼ばれるその事件から14年後、広報官の三上は、警察庁長官の被害者宅への弔問及び記者会見の手配をすることに。
<感想>
 久しぶりに時間を忘れて、残り半分を数時間かけて読みきってしまったよ。面白かった。前半はややスローペースなんだけれど、人物描写の丁寧さと先行きの読めなさで、苦にはならない。そして、後半のどんでん返し。ずっと張り巡らされてきた伏線の見事な回収ぶり。素晴らしいミステリだった。
 警察は、人事や監察、広報を担当する警務部と、実際の事件を担当する刑事部があって、彼らはお互いに仲が良くない。さらにはキャリア、ノンキャリア間の隔絶、みたいな話があるというのは警察小説を読んでいて得る知識で、まあどこまで本当か分からないけれど、この『64』も、そんな話。
 広報官の三上は、今は警務部に所属しているけれど、かつては刑事部にいて、今でも戻りたいと心の中では思っている。でも、今回の長官来訪は単なるポーズではなく、裏にもっと大きな理由があり、それは刑事部にとって悪い話であることを知る。揺れ動く三上が出す結論というか、生き方が良い。
 ロクヨン事件を巡るミステリとしても、警察を描いた小説としてもとても満足。さすが横山秀夫、七年ぶりの長編だけのことはあった。