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- 作者: 上田早夕里,山本ゆり繪
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2010/10/22
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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世界規模の海底隆起により、多くの陸地が水没した25世紀。人類は陸上民と海上民に別れて暮らしていた。日本群島の外交官・青澄は双方のトラブルの解決を図る日々を送る。ある日、彼のもとに海上民の部族長のひとり・ツキソメと接触せよとの任務が下る。
<感想>
とにかく、青澄が格好いい。信念を貫き、諦めず、双方にとって一番良い解決策を最後まで探り続ける。交渉を仕事とする彼は、人は情ではなく、理と利によってこそ動く、と信じ、そしてそれを実践する。
青澄だけではなく、マキや、ツキソメ、タイフォンと言った魅力的な人物たち。悪役、敵役の中には無情で、非人道的な人間もいるけれど、彼らもまた彼らなりの理と利によって動いている。ときに出し抜き、ときに懐柔しながら、解決を図る青澄のかっこ良さよ。
作中では、さらなる大災害が予見され、青澄は立場が異なる人間たちを、その立場が異なるまま、相互理解などできないと分かっているまま、それでも利と理によって、多くの人間が救われる道を探す。SFでありながら、というかSFであるからこそ描ける人間像だと思う。
作中の世界観の説明がちょっと煩雑であったり、最後の展開があっさりしているといった不満もあるけれど、全体としてはとても良い小説を読んだ。頭の良い人間を書くのは、本当に難しい。
ところで。冒頭では大地震の話が出たりして、こういうのを読むと書かれたのはいつなんだろうと気になってしまうようになった。2010年の本なので、3.11よりは前だけれど、ほんと今の社会の在り方を考えざるを得ない。フィクションを通じて、現実を考える。これもまた、フィクションの役割。
明治維新後、戦後、と同じように震災後、という区切りが付くんだろうなあということを、改めて思った次第。