ドラえもん 新・のび太と鉄人兵団 はばたけ天使たち

公式ページ(音注意)

http://doraeiga.com/2011/

観に行くかどうか迷っていたのですが、ちょうどタイミングが合ったので観に行ってきました。
取り敢えず結論から言えば、傑作です。
迷っている人、躊躇している人はぜひ見に行ってください。

以下、ネタバレを含みます。

公開前はもう不安しかなかったですよ。新ドラになってから、映画は低調の一方。
特にこの三年の『緑の巨人伝』『新・宇宙開拓史』『人魚大海戦』は子供向けと言っても、褒められた出来ではなかったので。
もっと言ってしまえば、『竜の騎士』後の映画は個人的にはあまり高い評価ではないです。
『雲の王国』と『銀河超特急』がちょっと良いかなと思うくらいで。
新ドラになってからは、『恐竜』と『魔界大冒険』のリメイクはまあまあでしたが、『宇宙開拓史』は改悪と言われても仕方のない出来でした。
新ドラが旧作のリメイクを始めてから、いつかは『鉄人兵団』のリメイクが来てしまうのではないかと戦々恐々としていました。
そして、昨年。ついにその発表があり、ついにこの日が来てしまったかと失望したものです。
 
『鉄人兵団』と言えば、一般的にも個人的にもドラ映画の最高傑作。
映画史上もっとも魅力的な女性キャラクターのリルル。当時初めての敵キャラとして登場したゲストキャラで、当初の冷酷な性格から、徐々に打ち解けていき、最後は世界を救う役割を果たすという、小学生には衝撃的なキャラクターでした。
最後にリルルが自らが消えてしまうと知りながらも改造を続け、そして青白く光りながら涙を流し、静香と別れを告げるシーンなどは思い出すだけで涙が出てきそうです。
「今度生まれ変わったら、天使のようなロボットに」は名台詞中の名台詞。
 
また、鉄人兵団という敵の強大さも際立っていました。
鏡面世界とは言え、世界を壊滅させます。東京タワー、自由の女神凱旋門エッフェル塔がロボットによって破壊されていく様は恐ろしいものがありました。
森が燃やし尽くされた時、「世界が燃えているみたいだ」という台詞が、まさに敵の強さを象徴しています。
巨大なザンダクロスが、人間より少し大きい程度の鉄人たちによって倒される場面はまるで巨象が蟻によって倒されるようで、子供心にそら恐ろしいものを感じました。 
 
その他、挙げればキリがないほど、旧版の『鉄人兵団』は私にとって思い入れの深い作品です。
 
それが、新ドラでリメイクされるといえば、期待よりも不安が先立つのは仕方ないことでしょう。
新キャラクターとして発表されていたピッポも、事前の映像を見る限りではかなりムカつく余計な新キャラというイメージを抱かせ、その不安はますます募るばかり。
どうか綺麗な思い出を汚さないで欲しい、という思いが一杯だったのです。
 
いざ公開されてみると、なかなか評判が良いようでしたが、それでも眉唾もので観に行ってきました。
さて、するとどうでしょう。
そのような不安など序盤で吹き飛び、もう後はスクリーンに釘付け状態。
まさに大満足の1時間50分でした。
 
最大の不安要素だったピッポは、案に反してなかなか良いキャラクターでした。
確かにムカつく性格ではありましたが、それはうまくギャグ方面に転化されており、ラストの展開に向けて一役買っていました。
 
また、この映画の見所はなんと言っても作画、動画です。
もともと新ドラの映画は作画・動画に関してはかなり評価が高く、それがこの『新・鉄人兵団』ではアクションシーンの多い故に、長所が活かされ、戦闘シーンの迫力に繋がっています。
序盤の見所、ザンダクロスによる高層ビル破壊シーンなどは息を飲むほど。
まず、これで目を奪われたと言っても良いでしょう。
その他にも細かいギャグなども盛り込まれ、動きで魅せる、ということが重視されています。
これは、テレビ画面ではなく大きなスクリーンで見てこそ、映えるものです。
  
ストーリーに関しては高い評価であった原作を踏襲し、あまり大きな改変を加えていません。
後出しジャンケンと言ってしまえばそれまでですが、掘り下げるべきシーンを巧く掘り下げています。
ザンダクロスの頭脳という設定を生かし、ピッポに重要な役割を当てたのは正解でしょう。
静香とリルル、のび太ピッポというように巧く対比させていました。
もちろん、一番の見所、最後のリルルによる改造シーンもとても良かった。
博士が途中で息を引きとってしまうという旧作以上に衝撃的な展開の中で、リルルが「どのように」改造をすれば良いのかを博士から教えてもらうのではなく、自らが考えた上で導きだす、というように改変したのは、とても素晴らしいと思います。
名台詞も健在。
 
あと、声優さん。これも外せません。
ドラ映画も一時期はタレントを多用し、その棒演技を聞くだけで萎えてしまっていました。『緑の巨人伝』など目も当てられません。
しかし、その後はメインキャラにはプロの声優を起用するようになり、その点は評価していました。
今作もリルルには沢城みゆきピッポには小林由美子とベテラン声優を起用して安心して観ていられます。
タレント枠の総司令官役の加藤浩次もなかなかの演技で悪役を好演。
棒演技はテレ朝のアナウンサーを使った雑魚ロボットくらい。 充分に許容範囲でした。
新ドラの声優さんも六年目に入り、ようやく慣れてきました。旧ドラと比べて、こればかりは慣れるしかないですが、聴き慣れればなかなか良いものです。
 
もちろん、不満もあります。
たとえば、ミクロスの出番はほぼ全部カット。三ツ矢雄二演じる旧版のミクロスファンには残念。 ただこれは、その役割がピッポに割り振られている以上は仕方ないかと。
また、旧版ではリルルひとりが担っていた役割がリルルとピッポのふたりに分けられた結果、リルルの影が薄くなってしまいました。
リルルとピッポ、ふたりのどちらに感情移入して良いか分かりづらいのは、難点。
 
全体的にテンポが速くて、展開が急ぎすぎにも見えます。
ちょっと見ていて忙しない印象を受けてしまいました。
 
感動を押し付けるような作風になりがちで、旧作であった「恐ろしさ」「不安」「暗さ」といったものが薄れてしまっているのも残念。
 
その他、ここを削ったのかとか、ここを変えたのか、と細かい不満もありますが、ほとんど難癖レベル。懐古厨のたわ言と言って良いでしょう。

この『新・のび太と鉄人兵団』は、新ドラのみならず、旧ドラの映画と合わせても、トップクラスの作品であることは間違いありません。
願わくば、オリジナル作品での傑作を今後も期待したいと思います。